ク サ ギ 臭 木
Clerodendrum trichotomum Thunb. (1780)
APG分類: シソ科 Lamiaceae , Labiatae
旧 科名 :  クマツヅラ科 Verbenaceae
属 名 : クサギ属 Clerodendrum Linn. (1737)
中国名 : 海州常山 hai zhou chang shan
英 名 : glory bower
原産地 : 北海道から九州、南西諸島
韓国、台湾、中国の各地方、インド
用 途 : 観賞用
民間薬として使われた

クマツツラ科の代表選手のような気がしていたが、APG分類では「シソ科」に移された。 「シソ科の花=筒状で先が2つに分かれた二唇形」という見分け方ができなくなってしまった。

クサギは成長力が強く、根元で切られても 日当たりの良い所なら、翌年には3mぐらいまで伸びてしまう。
2010年までは 精子発見のイチョウの裏にクサギの藪があったのだが、ほかの木を優先するためか、切られてしまっている。

30番通り 震災記念碑の手前に、何とか生きている という感じの一本がある。

                @ : 貧弱なクサギ   ↓       2011.8.2
高さ 3m。 上部で花が咲いている。 日当たりが悪いのが原因だろう。

この上部が、9月の台風12号の風で折れてしまった。 まあ、強いので枯れる事はないでしょう。                       2011.9.6


それに クサギは実生の苗が次から次へと生えてきて 始末に困るほどであり、育てようと思えば、いつでも大きくできる。


                  A : 若いクサギ            2011.8.16
昔生えていた ココノエギリが倒れて ぽっかり空いた場所に、何種類かの植物がまとまって生え出していた。 その中の一本がクサギで、カジノキと背丈を競い合っていた。

花 と 葉の様子
花の数はそれ程多くないので、近付いてもその良い香りは漂ってこない。
たくさんの花が咲いていると、7、8m離れても匂うことがある。

初めから萼が赤く色付くものも
植物園のクサギは 開花時には萼に色が付かないが、初めからピンクになる木もある。 遠くから全体を見ると、かなりイメージが違う。 漏斗状の花の喉の部分は濃いピンク色。 花弁は5つに割れるが、雄しべは4本である。
A : 花の横顔


何種類かが混ざったままそのまま放置されているので、そのうちに全部切られるのではないかと思っていたら、案の定 9月の初めに無くなっていた。
2011.9.6
どうせ切るならもっと早くに引き抜けばいいものを・・・。 太さは 6 ・7cmだが、こうなると根を掘り起こすのにも一手間掛かる。


                       実                2008.10.5
萼が真っ赤になって残り、果実とのコントラストが目立つ。 黒く見える実は、濃い藍色、碧色である。

 
クサギの 位 置
写真@: D7 a 30番通り、震災の記念碑手前 右側
写真A: C5 ab 若木が切られた場所
C9 ab 以前にたくさん生えていた場所


名前の由来 クサギ Clerodendrum trichotomum

和名クサギ
葉を揉むと臭気があるためだが、ちょっと嫌な匂い という程度で、悪臭ではない。 個人差はあるでしょうが・・・。

種小名 trichotomum : 三岐の という意味
3つに分かれるといっても「ミツマタ」の枝とは違って、真っ直ぐ伸びる枝と 対生に生える枝の3本である。 よく枝分かれするので目立つためであろう。

英語名 glory bower :
「栄光の木陰」 とはどういう意味だろう。 
「木陰」のイメージは 木の下にできる陰であるが、クサギはそれほど大きくなる木ではないので、ちょっと難しい。

Clerodendrum属 : 
ギリシア語の 「kleros 機会・運命」+「dendron 樹木」で、本属のある種を呪術に用いた あるいは 医薬として優れた効能を持つ事にちなむ、といわれている。               『園芸植物大事典』
これではなぜクサギ属が「運命の木」と名付けられたのかはわからない。

属名の命名者は規約上 リンネ(1707-1778)になっているが、『植物の種』(1753年)に挙げられている参考文献には その200年以上前のものが含まれている。 Clerodendrum については、リンネと同年代で アムステルダム植物園の園長を務めた ビュルマン(1706-1779)が使っていた。

『植物の種』 637ページを見ると、Clerodendrum属には 一種 と 一変種のみが記載されている。 その学名は Clerodendrum infortunata であるが、これは infortunatum の間違いのようだ。

変種には学名は無い。 変種の項の参考文献のひとつが、ビュルマンによる 『セイロン植物誌 Thesaurus Zeylanicus』(1737年)で、66ページに図版も載っている。
 

図書はミズーリ植物園図書館による『botanicus』で公開されており、商用利用でなければ 使用が可能である。
Joannes Burmanni セイロン植物誌 (1737)
Clerodendron folio lato & acuminato
この図が「クサギ Clerodendrum trichotomum」と同一の保証はないが、ビュルマンによる名称は「幅広で次第に尖る葉のクレオデンドロン」であり、本文で「PINNA」(fortunata)と表現している。 また同時に葉が心臓形の別種を「PINNAKOLA」(infortunata)として、詳しく説明している。

なぜ 「幸せな」 と 「不幸な、失敗の」という名を対比して付けたのか、あるいはすでにそう呼ばれていたのかは不明である。 辞書を両手にラテン語を調べてみたが、”占いに使う” とは書かれていないようだ。
良い匂いが「幸せ」で、くさい葉の臭いが「不幸せ」か・・・・。

二種を同じ属と考え、「幸福と不幸」があるので「運命の木の属」としたようだ。

リンネも、変種として記載した本図を「別種」と考え直したようで、すぐに
『Centuria 第二巻』(1756年)に、C. fortunatum を記載している。

ところが、ふたつの学名はともに 現在は使われていない。 その理由は不明である。

シソ科 : Lamiaceae Martinov  nom. cons.
漢名「紫蘇」の音読み。 蘇 には「草」の意味があり、「紫色の草」の意。
基準属は オドリコソウ属 Lamium属 で、ギリシア語の 「laimos 喉」 に由来する。
オドリコソウ
また 現在でも Labiatae Juss. nom. cons. が使われる事が多い。 
こちらは、ラテン語の 「labea くちびる」による。 

以前は世界に 約 200属、約 3,500種 だったが、APG分類では クサギ属のほかに、以前 クマツヅラ科だった ムラサキシキブ属・カリガネソウ属・テングバナ属・ハマクサギ属・ハマゴウ属 がシソ科に移され、238属、6,500種 があるということだ。  『MABBERLEY'S PLANT-BOOK』
どちらの科名も「保留名」となっているので、命名の経緯を調べてみた。

命名年 学名 命名者 書名 備考
1735  Lamium属  Linne  自然の体系 第一版  トゥルヌフォールが名付けていたもの
1737  Moluccella属  Linne  植物の属 第一版  カイガラサルビア属
    この当時は現在の「科 Family」という概念は無かった
1789 LABIATAE  Juss.  植物の属  LABIATAE Molucella属
    科名を「〜ACEAE」で統一する前に名付けられ、これが
    一般に普及したために、保留名となっている。
 ? LAMIACEAE  Martinov  書名は?  ロシアの植物学者、(1771-1833 ?)
     種の記載を伴わなかったために、正式名にならなかったものと思われる。
では、誰が種の記載を伴って 正式にシソ科の植物を記載したか、については調査できていない。

 参 考
  以前の分類先
クマツヅラ科 Verbenaceae
クマツヅラ科すべてが変更されたわけではなく、クマツヅラ属をはじめとして現在でも 35属 約1,150種がある。

学名 Verbena の由来はクマツヅラ属のある種に対する、古いラテン名ということであるが、詳細は不明。 『園芸植物大事典』
別の事典には「神聖な枝」の意 とあった。『花と樹の大事典』
 
クマツヅラ (熊葛) Verbena officinalis Linn. (1753)
クマツヅラの名前の由来は、この植物の姿が乗馬用の鞭(ムチ)に似ているところから 「ウマウツツヅラ」が変化して「クマツヅラ」となった、というものである。『花と樹の大事典』より
 
この写真は小石川植物園の薬用植物見本園のものである。
全体が藪になってしまってわかりづらいが、1本の茎に注目しても、枝分かれしていていて、とても「鞭」には使えそうにない。
クマツヅラ

 
確認のために、春日健二氏 のホームページ「日本の植物たち」の中からも写真をお借りした。
クマツヅラ

(kasuga@mue.biglobe.ne.jp
春日さんの写真を見ても、やはり馬の鞭には見えない。だいいち、せいぜい80cmにしかならない「草」をツヅラ (葛)というのは おかしい! 
この「ツヅラ」はつる(蔓)という意味ではないのであろう。 つるで編んだ籠を「つづら」と言うが、それでもない。

一方で、クマツヅラ属の中国名も先の由来と同じで、「馬鞭草属」という。
こちらには ちゃんと「草」がついており、クマツヅラの別名にこれを音読みした「バベンソウ」というものまである。
クマツヅラには止血・消炎作用が有り、漢方でも馬鞭草と呼ばれて利用されていた(いる?)ということなので、「馬の鞭」に由来するというのもあながち嘘ではなさそうだ。

事典には日本で「クマツヅラ」の名が初めて登場するのは「本草和名」 (918) とある。 どちらが歴史があるかと考えると漢方薬の方が古そうだが、日本に自生している植物であるから漢名は関係しないであろう。

名もない雑草に名前を付ける時、万一 漢名を参考にしたとしても、この草に 「ウマウツツヅラ」などと呼びにくい名を付けるだろうか? はなはだ疑問である。
 


植物の分類 APG分類による クサギ の位置
原始的な植物
緑藻 : アオサ、アオミドロ、ミカヅキモ、など
 シダ植物 :  維管束があり 胞子で増える植物
小葉植物 : ヒカゲノカズラ、イワヒバ、ミズニラ、など          
大葉植物(シダ類) : マツバラン、トクサ、リュウビンタイ、ゼンマイ、ヘゴ、オシダなど
 種子植物 :  維管束があり 種子で増える植物
裸子植物  種子が露出している
ソテツ 類 : ソテツ、ザミア、など
イチョウ類 : イチョウ
マツ 類 : マツ、ナンヨウスギ、マキ、コウヤマキ、イチイ、ヒノキ、など
被子植物  種子が真皮に蔽われている
被子植物基底群 : アンボレラ、スイレン、など
モクレン亜綱 : コショウ、モクレン、クスノキ、センリョウ、マツモ、など
単子葉 類 : ショウブ、サトイモ、ユリ、ヤシ、イネ、ツユクサ、ショウガ、など
真生双子葉類 : キンポウゲ、アワブキ、ヤマモガシ、ヤマグルマ、ツゲ、など
中核真生双子葉類: ビワモドキ、ナデシコ、ビャクダン、ユキノシタ、など
バラ目 群 :
バラ亜綱 : ブドウ、フウロソウ、フトモモ、など
マメ 群 : ハマビシ、ニシキギ、カタバミ、マメ、バラ、ウリ、ブナ、など
アオイ群 : アブラナ、アオイ、ムクロジ、など
キク目 群 :
キク亜綱 : ミズキ、ツツジ、など
シソ 群 : リンドウ、ナス、シソ、など
   シソ目 モクセイ科、ゴマノハグサ科、キツネノマゴ科、シソ科 など
以前の分類場所 クマツヅラ科   クマツヅラ属、ハリマツリ属、クサギ属(変更↓) など
シソ科   オドリコソウ属、シソ属、ラベンダー属、クサギ属 など
キキョウ群 : モチノキ、セリ、マツムシソウ、キク、など
後から分化した植物 (進化した植物 )
シソ類は双子葉植物の中でも 最後の方に分化した植物である。
クマツヅラ科 と シソ科はもともと近縁なので、この変更には サプライズは無い。

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